チューベローズ





耳を塞ぎたくなるような水音を立てて、唇が離された。間を繋ぐ透明な糸が耐え切れずに切れる。
「ん・・・っ」
惜しむようにもう一度だけ吸われた唇は赤く染まっていて、息苦しさに薄らと開けた瞳からは涙が一筋零れ落ちる。
神田はそれを舌で掬うと、片腕でリボンタイを解きアレンのシャツに手をかけた。
「・・・っ!ちょ、やめ・・・!」
制止の声を気にかけることなく悪戯に首筋に這わせた舌できつく吸い付いては赤い色を落としていく。その間もシャツのボタンは手際よく順に外されていった。
「や・・・だ、やめてくださいってば!神田!!」
ぐい、と腕で突っぱねられて、密着していた身体が離れる。当然それが気に入らない神田は、眉を顰めて、不機嫌も露に甘い声とは別の低い声で囁いた。
「・・・・・・何だよ」
「人の話聞いてましたか!?僕はもう明日の朝は次の任務に行かなきゃならないんです!」
「・・・・・・だから」
「こんなことして明日立てなくなったらどうしてくれるんですか!!」
擦れ違うこと早3ヶ月。数字にするのは簡単だけれど、実際の時間としては鬼のように長い。
久しぶりに会えたのは嬉しいし、ゆっくり一晩過ごしたい気が無い訳じゃない。けれどそれ以上に明日動けなくなったら困る。神田は困らないかもしれないが、自分はもの凄く困る。冗談じゃなく命に関わる。
無表情のままこちらを見てくる神田が、忌々しげに短く舌打をした。肌蹴たシャツと、肌に散る赤い花。あまつさえ潤んだ瞳で上目遣いに睨まれたところで引き下がるどころか逆の方向へ感情が高ぶるに決まってる。
「だから一回で終わるっつってんだろ」
「貴方そう言って一回で終わった試しないでしょおが!」
「・・・んだよ、ヤるのかヤらねーのかはっきりしろ」
「だから最初っからヤらないって言ってるでしょおおおおお!!!」
はあはあと肩で息をする程に叫んでみる。世界は自分を中心に回ってるとでも思ってるのかこの男は!
「っもういいです!」
いくら説得しても無駄だ。直感でそう悟ったアレンは、渾身の力でもって自分の上に圧し掛かっている神田を引き倒した。その勢いで自分が逆に神田のマウントポジションへ上がる。
「!? おい!」
「神田も一度思い知ればいいんです!僕が次の日どんな辛いのか!」
「ばっ!?ふざけんなどきやがれ!!」
「今日は僕が可愛がってあげますから」
普段なら天使の微笑み、とでも形容したであろう極上の笑顔が、何故か立場が変わった今では悪魔の化身に見える。
ぞく、と背筋に嫌な物を覚えた神田は必死に抵抗するが、逆にシャツに手をかけられ全体重を腹の上に預けられては起き上がることもできなかった。
「おい冗談じゃねぇ!いい加減にしろクソモヤシ!!」
「黙っててください!前から思ってましたけど、こんなの不公平です!君ばっかり良い思いして!!」
「テメェだって善がってんじゃねぇかよ!」
「そういう風に君がしたんでしょう!?でも僕にも男としてのプライドぐらいあります!」
「俺にだって有るに決まってんだろ!?」
「僕が半分捨てたんだから神田も捨ててください!!」
「わけわかんねぇ理屈言ってんじゃね・・・・!!」
瞬間。
ドォン!!と、小規模な爆発でも起きたかと思うような轟音と共に、部屋のドアが吹っ飛んだ。
何事かと音の方を見遣ると、可憐な少女が変形させたその靴で、ふわりと優雅に床へ降り立つところだった。
乱れた髪と服を軽くはたくと、にっこりとベッドでじゃれあう男二人へ微笑んだ。それはもう、後ろに鬼が見えるような極上の微笑みで。
その後ろでは、赤い髪の男が気のせいか小刻みに震えていた。恐怖で。
「二人とも、もうちょっと静かにね?廊下にまで声が響いてるわよ。それにしてもそんなに仲が良いなんて知らなかったわ。妬けちゃうわね。ねぇラビ?」
急に呼ばれたラビは、その瞬間びくりと身体を震わせた。
いつもならば同情の一つもするところだが、硬直したままの神田とアレンに今できることなど何もない。
「ここのところ立て続けだったから、アレン君も疲れてるだろうと思って出発を明日にしたんだけど、そんなに元気なら大丈夫そうね。今からでも行ってくれるかしら。神田にも新しい任務あげるわ。私とラビの代わりに行ってきて頂戴。」
アレン君の任務地とは反対方向だけどね。と可愛らしい笑顔を一つ残して、我らが女王は去っていかれた。その後ろを怯えながらついてきたラビは宛ら従者だったとは科学班の後日談である。
「・・・・・・・・・・・・オイ」
二人の後姿を見送って、ゆっくりと硬直が解けた神田が、ちらりと自分の上に跨ったままのアレンを見ると、ゆっくりとその目がこちらへ向いた。
そして、先刻とは違う視線できっと睨みつけると、よりにもよって左手の拳が飛んできた。
神田の顔の腫れは任務から帰ってきた時まで引いていなかった、と神田の帰還に居合わせたラビは語る。
 
 
 








阿 呆 い 。
ひぃぃぃごごごごめんなさ・・・!!!(ガタガタブルブル)
あの、もう、散々お待たせした挙句にコレかよ!という・・・はい・・・・・いや・・・うん、言い訳はしません。
OK下さった鹿住様は相変わらず神です。前半だけ楽しんでくださってもいいです(笑)
2900ご申告本当にありがとうございましたぁぁ!!!

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