静かな風が木の葉を微かに揺らす。
その葉どうしが擦れあって響く乾いた音は、嫌いではなかった。
深い緑が揺れ動く。その様は見ていて飽きなかったし、似た色をするから。
あの人の、瞳の色に。
ふと見上げれば、青ぞら。
人工的に作り出され、管理されているものだとしても、嫌いではなかった。
いつだったか、自分の瞳の色だと形容された。
けれど少し暗くなれば、よく似ている色になる。
暗く沈んだときの色に。
その空になれば、それを反射する海の色が、一番良く似ていた。
不安と、戸惑いに揺れ動くときの瞳に。
真摯に目の前のものを見つめるときの瞳に。
自分を、真直ぐに見つめてきてくれる時の瞳に。
「ラークースーーぅ!!」
その固さに合わない軽やかな動きと音で跳ねながらこちらへ跳んでくる球体。
あの人の、最初のおくりもの。
振り返り、笑顔と共に軽く両手を差し出せば、
寸分狂う事無くその手の中へと降りてくる。
「ハロハロ?オマエ、ゲンキカー?」
「ええ、元気ですわ。」
耳のようなものをせわしなくパタつかせ、目の部分のライトが点滅している。
おまけに、手のなかでくるりとまわってみせるほどだ。
感情がない、と創り出した手の持ち主は言ったが、
可愛がる手の持ち主は、これがこの子の機嫌が良い時の動作であることを知っていた。
「そろそろですわね。」
そっと、手の中の球体に呟けば、それが待ちきれないとばかりに
手の中から飛び出していった。
それはまるで、自分の心境を表しているようで、思わずくすりと笑った。
彼が、彼らが、戦いの場から退くことができないのなら、
戦いの場に立つことを選ぶのならば、それを止めることはできない。
けれど、どうか傷つく事無く戻ってきて欲しいと思うのも事実。
だから、せめて自分にできることを。
祈ること。
それを『自分にできること』として変換すれば、イコール歌うこと。
その時の自分の声を、歌は苦手でよくわからないと自らを称した彼は、
そういってからけれど綺麗でとても好きだと言ってくれた。
誇りを持っているのは、そのせいでもある。
色とりどりのハロたちが飛び跳ねる様子を見ながら、
その前にいて戸惑っているであろう彼の姿を想像した。
そして想像どおりにいた久しぶりに見る彼に。
「おかえりなさい」
決して彼の家ではない。
けれど、いつでも還ってきても良い所なのだと,還ってきて欲しいのだと。
そうして、やっと彼が欲しい返事を返してくれるようになったのは、つい最近のこと。
「ただいま。」