全身が暗い海へ溶けていく感触。
水の温度は恐ろしいほど冷たい。
けれどずっと浸っているせいで、自分の体温も同じ位冷め切ってしまった。
否、冷たくなったのは心かもしれない。けれどそれを確かめる術は今の自分には無い。
この海から、抜け出したいのか。
自分でそうすることは、恐らく、不可能だ。
だとしたら、誰かに手を差し伸べてもらうことを待っているのか。自分は。
それとも、この海にこうじてたゆたい続けることを望んでいるのだろうか?
光の当たらない、この場所で。
己の醜さを自分でみることも、誰かに見られることもなく、闇に隠されているここに。
包まれ、守られている。
同時に、酷く責められている気分になる。
曝け出されることはない、それはすなわち、誰も本当の自分を知らないということ。
他人の認証をもってしか自分の存在を確認し、確信できない愚かな人間にとっては、
それは自分の存在が虚無としてあることに等しい。
それでも、この心地好さから―――自分が『否定されている』という快感から
身を起こす気にはなれなかった。
誰かの手を借りて引き上げられるくらいなら、このままいなくなってしまっても変わらない。
どうせ、自分などはじめからどこにもいないのだから。
今ここでこのままこの深い海へと溶けていっても、何も変わらない。
悲しむ人もいなければ、自分が恐怖を覚えるわけでもない。
誰も、知らなくていい。僕を。
全身に微かにかけていた力を抜き、コールタールのような水へと身を沈める。
これでもう戻れはしないのだろうな、とぼんやりと頭の片隅で思った。
それ以外は、何の感情も見えない。ふりをした。
・・・左眼の傷が、少し、疼いた。


BGM(ImM):Maybe...Maybe...(Angela)