足の爪先から海水に浸食される感覚。
水の感触なんて、もう嫌という程知っていた筈なのに。
こんなにも心地好いものだったんだ。
だって、全て『知って』いたけど感じたことの無いものばかりで。
素足の下で動く砂の感触がくすぐったくて、目を細める。
そのまま視線を上げれば、陽の光を反射して光る海と空。
今は偽者だけど、いつかきっと本物の下で笑える日が来るから。
いつか。
「その時に、私もいられたらいいのにな」
本物の空の下で、笑えるようになった時に。
けれど、たとえ終わりが来るとしても自分で選んだ道だから。
少し寂しいけれど、悲しくはない。
だって今を選ばなければ、こんな風に肌を晒すこともできなかった。
水の感触を心地好いと思う事も、砂の動きを感じることも。
「乙姫」
こうやって、優しい声で呼ばれる自分の名前を直接聞くこともできなかった。
ぎゅ、と。抱きつくことも、抱きしめてもらうことも。
「乙姫?」
「・・・・・・もう、ちょっとだけ」
小さな我儘をきいてもらうことも。
優しく髪を撫でてもらうことも。
温りを感じることも。
こうして、お互いに存在ることも。
ひとつにならないから、お互いがいるからできること。
「私はまだ、ここにいるよ。」
見上げた先は、どうか笑顔でありますように。