| Side-L 静かな森だった。 小鳥が囀る声や木々の葉が擦れあうざわめきも聞こえていた。 それらの透明な音とは酷く不釣合いに足元には無数の残骸がある。爆発した跡。 その起因は間違いなく今私の足にある神の結晶だ。何故なら私がそうしたのだから。 まだ動いていた頃のこの残骸達と衝突かった音も感触もまだ覚えている。 遠くで微かに聞こえていた爆発音も何時しか已んでいて、さぁ、と吹き抜けた風が肌に心地よかった。 それが触れた所為で、服が幾らか破けている事を知る。 脳は疲れていて、もう何も考えたくないと思った。 足元に転がる壊れた機械を確認したくはなかった。大体どれもグロテスクで見るに耐えないと知っている。 でもこれだけの数が有る中で、それでも私が倒したのは半分程だ。 それなのに、呼吸するのすらも億劫に感じさせる程の疲労を感じていた。 情けない、というより珍しいと自分でも思う。 目は先刻から何を追うでもなくただぼうと木々の合間から覗く蒼穹と、そこへ流れる雲を見つめていた。 足が酷く疲れている。いっそ座り込んでしまおうかとも思ったが、そのために足を動かすのすら面倒だ。 第一、こんなに毒の染み込んだ土の上では服が汚れてしまうと思った。 けれど、これだけ破れているのだから今更かもしれない。何より、もう、全てがどうでも良かった。 何故か無償に、ただぼんやりと流れる雲を眺めていたい気分だったのだ。 半足分、ジャリ、と音を立てながら、引きずるようにして足を引いた時、やっとその気配を感じた。 微かな機械音と共に、隠そうともせずに突きつけられる殺気。また動いている残骸があった。 多分、その不自然に篭った音とも声とも取れぬ空気の振動が、下品な笑いでも伝えていたのだろう。 けれど、そんなものは耳に入らなかった。入っていたとしても、脳が処理をしなかった。 普段なら瞬時に動いてその音を黙らせる為に蹴り倒してやるところを、もう今はそんな気力も沸かなかった。 殺すなら殺せば良い。死ぬのが恐いとは思わなかった。それよりも唯、動くのが億劫だった。 だから、ただそれだけの理由で動かなかっただけなのだけれど。 どうやらそれを怯みと勘違いしたらしい機械が、声高に何かを叫んで、 私を殺そうとした、のだと思う。 けれどそれよりも早くその声は途切れた。突き立てられたのは黒い神の結晶。私のものではない、鍔の無い刀。 無様な叫びと爆発音が響く。そしてそれから遮る様に、柔らかな匂いと体温が私を包んだ。 爆発の風が髪を靡かせる。藍のブルネットが、風の所為で私の碧と絡まる。 私の視界は、その広い肩に遮られた所為で殆ど無かった。 「・・・・・・何やってる」 今まで縦横無尽に駆けていたのだから、当然普通より高い体温がゆっくりと離れた。 その温かさとはまるで真逆の低い響き。けれど先刻の音とは違い、しっかりと脳で言葉が処理された。 逆光気味の藍が、酷く綺麗で、何時の間にか私の視線は雲からその藍へ移っていた。 同じ色でも、強い光を灯すその瞳よりも今は長いブルネットの方が良い。 今視線を合わせたらきっと、また生に渇望してしまう。まだもうすこし、この空気の中にいたかった。 「聞いてるのか?」 手を離そうとして、私がよろけた所為でまた抱えなおした手は、紛れも無く異性の物だった。それで良い。 そう思うと、私を助けたことだけが、酷く彼らしくない気がした。 彼は、孤高の人で在る冪なのだ。捕らわれず、自由に、崇高とも云える、真っ直ぐな、なのに 「―――おい」 「弱虫」 私一人を失くす事さえ怖がるだなんて。 |
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| Side-Y 深く皺が刻まれた白いシーツの上に、色違いの黒髪が散らばる。 自分の唯面白みも無く長く伸びただけのそれとは違い、碧に光るそれは優しく緩い弧を描く。 先刻から腹の上に感じる重みは、けれど嫌ではなくて、温かい。自分とは不釣合いな程。 素肌に直に触れる感触は何時でも心地よいと思う。それが何時かは無くなると知っているから尚更。 完全には消えずに、薄暗い儘にされている証明をぼんやりと見つめていた。 時々シーツに触れている背が痛む。傷が擦れる所為だ。だが、それもじきに無くなる。 「ねえ」 呼びかけられる声に、仕方なく視線を照明から翡翠へ移す。 普段は名前で呼ぶくせに、自分の方こそおいとか何とか呼ばれるのが嫌いなくせに。 そうしないのは、機嫌が悪くなる前兆だ。悪くなってしまえば、また煩い位に呼ばれると知っている。 「―――言ってくれなきゃ、解らないじゃない」 「・・・何が」 「全部よ」 自分のものより細い指が胸元を辿る。その華奢な線を見るたびに、間違いなく彼女が異性なのだと知る。 滑らかに滑る指が、退屈を―――否、不満を表すように戯れてくるのを、指で絡め取った。 それをくいと引いてその細い指へ口付ける。爪先を口に含むと微かに震えた。 ゆっくりと伸び上がって視線を合わせられる。真上から覗き込まれた所為で、髪が顔の横へ流れた。 まるで、碧の帳に囲われた様だと思う。 「好きな事も、嫌いな事も、して欲しい事も、されて嫌な事も、言ってよ、全部」 「・・・何で」 「言ってくれなきゃ、解らないじゃない」 その台詞を聞くのは二回目だ。正確には今日は、であって、過去何度も似たような事は言われた気がする。 だがその度に返す返事も同じなのだから、いい加減諦めて欲しい。 「必要ねェだろ、そんなの」 「どうして」 「じゃぁ、俺が言ったこと全部聞くのかよ、お前は」 「いいわ」 嗚呼、どうしてお前はそうやって、 「貴方が言うのなら、どんな要望だって、聞くわ。―――ねぇ、だから」 どうして、そんな出来無い事を簡単に約束するんだ。 「私は神田みたいに、何も言わない相手の事を察するなんてできないもの。」 全て言葉にするなんて面倒な事、一々やってられるか。 そう言ってしまえば良いということも解っている。 解っているのにそうできないのは、言っても叶わないとそれ以上に解っている望みがあるから。 「だから、言ってよ。いつも神田にばかり甘えてるの、いやだもの」 じゃあ、お前は、例えば、俺が、 ―――俺以外の何も見るなと言えば、そうするのか? 出来る筈が無い。お前の世界は『仲間』でできていて、偶然俺が、その中でも特別な位置に居ただけだ。 俺よりも上位に兄がいる。もしかしたら、ラビやモヤシもいるかもしれない。 何よりも、その世界を俺一人に狭めれば、お前は、。 「神田」 「煩せぇ」 その細い首を強引に引き寄せて、尚も言葉を紡ごうとしていた口を塞いだ。 何でも言え、などと、 如何してそんな簡単に嘘を吐くのだろう、この唇は。 |
20070606
Yu Kanda Birthday (with Lenalee)
と言いつつ欠片も祝う気配がないのはいつものことです。
どうしてもリナ神になるのはこれいかに。