False Fool
side-K



 「ユウ」
 短く名を呼ばれたと同時に背に痛みが走る。冷たい壁の感触。同時に唇に触れる温り。さながら噛み付く様に。息が出来なくなる程の。
 突然なのはいつもの事なので今更どうこう言ったところで無駄だ。せめて場所を考えるようになっただけ進歩したくらいだ。
 いっその事、深い傷でも残してくれた方がマシだと思う。完治に何日かかっても良い。こういう時、いつも以上に自分の身体が憎らしい。だからこそ、けれどどうしたってコイツが俺を傷付ける事など無いと知っているから尚更。
 だから代りに、疵を、と。
 どれだけ深くても良い。多分最初はお互い単なる暇潰しだった。何時から、こんな狂気紛いの感情を絡めるようになった。
 先に囚われたのは、どっちだ。
 「ユウ」
 「馬鹿、息できね・・・」
 やっと離れた先の唇は艶やかに弧を描く。目の前の引きは、夜のものだ。暗い光を宿す。ぞくりと背筋が凍るような。けれど、嫌いではない。むしろ。
 「ラビ」
 「解ってるさ」
 一瞬だけ掠める熱。ちゅ、と可愛らしい音を立てて離れる唇。その音に頬を赤く染めるような可愛げはとうの昔に無くなっている。今あるのはただ、身体の生理的欲求のために熱を求めるだけだ。
 強いて言うのならあとは、相手を繋ぎとめる為の手段としての。
 「いいよ。今はコレだけで」
 隻眼が不敵に笑う。知らぬことが恐怖だと奴は言った。ならばどこまでも未知数であろうとした。その奥に光る世界に、果たして俺は如何様に映されているのか。




ラビはキス魔だといい(変態じゃん)






False Fool
side-A



 ねぇ本当は誰を見てるの、なんて女々しいこと言いたくなかったけれど。
 「お前を見てるだろうが」
 そう言ってくれると思った。解ってて聞いた。なんてずるい子供なんだろう、僕は。
 貴方は嘘を吐かない人だから、きっと先日から気づき始めた貴方の匂いが他の誰かに似ているのだって、きっと相応の理由があるのだ。相応の。
 たとえば?そう、今日、往来の無い入り組んだ廊下の影に見たような。
 誰の匂いに?その時に見えた、褐色の髪の香り。
 「もし・・・」
 「何だ」
 「もし、僕が、神田を裏切るような事をしたら、どうしますか?」
 シーツに散らばる自分の髪を視界の端に見る。白一色。彩やかさは無い。そこへ左手を添える。途端暗闇でも解る程に広がる赤。そこへ、ギシ、というスプリングの短い悲鳴と共に白い手が添えられた。
 見上げた先の漆黒の瞳が、不敵に笑う。
 「お前にそんな事は、無理だ」
 どうして。なんで。どうしてどうして、そんな事言うの。逃げられないって知っているくせに。僕が貴方以外の人なんて、もう見れないって知っているくせに。僕はもう、気付き初めているというのに。その瞳が、その奥にもう一人をしか見ていないということに。どうして。
 けれどもう、この、自分だけにこの人が毎晩の様に割いてくれる時間があるという事実だけでいい気がした。
 今日見たものも、香りも、瞳の奥のものも、確証があるわけではないから、きっと何かの自分の思い込みかもしれない。きっとそうだ。だってそうでなくてはこの人が態々自分を縛り付けて置いてくれる訳がない。その思いを確信にしたくて、漆黒の髪の合間の白い首に腕を絡める。
 嗚呼、やみのかいなにのみこまれてゆくよ。






もしかしなくても私アレンに酷いことしてる?






False Fool
side-L


 月が、もうすぐ消えそうな刻だった。本当は情事の気だるさを残したユウの体なんて興味ないけど、今日は特別。今のこの身体を抱くことに意味があるのだから。
 ばれ始めているかもしれない、と足を運んだ彼にだから?とだけ返して床へと引き落としたのが月が真上から少し傾いた頃。馬鹿だなぁ、ユウ。今頃気付いたの?
 「・・・いいのかよ」
 「何が?」
 「アレにばれても」
 「別に?」
 隻眼に笑みを佩く。サラサラと指の先から流れる漆黒の髪を梳く。床に散らばったそれは少しだけ湿り気を帯びている。それと相反するかのような白の肌はまだ熱を忘れずにいて、少し弄れば咽喉は高い音を鳴らす。さっきまでする方だったくせに。
 「別に俺はどうでも。ユウが本当は『どっち付き』なのかがバレるだけさ」
 いっそ暴力的な程強引に下半身を嬲る。 本当は、痛いくらいの方が好き。でも感じるのは優しくされた時。突っ込んでも挿れられても昇る。本当、何時の間にこんな我儘になったんだろうこの身体は。誰がそうしたのかは別の問題。知ってるのは俺だけだから。
 「っ・・・・!や、め・・・」
 「ねぇユウ、バレたらどうすんの?ユウは困る?俺は暇潰しが一つ減るだけだから全然構わないんだけどさぁ、あの子、泣いちゃうかもね。そうしたらユウは悲しい?」
 「っや、ラビ、ソコ・・・・っ」
 「ねぇ、ユウ」
 漆黒の髪が硬い床の上で舞う。長く艶やかなそれを一房取って口付ける。流れるその感触は嫌いじゃない。
 ―――なぁ、アレン
 ユウがお前の前で髪を解いたのは何回あった?
 「・・・・っ、」
 「ん?何?」
 熱を傾けたまま、聞こえた言葉を繰り返させる。今この答えを聞かせたいのは自分にではない。『彼』にまで聞こえなければ意味がない。そのために今日特別に彼を抱いているのだから。
 「もうお前以外見れない事なんて・・・お前が一番解ってんだろ」
 嗚呼、本当に君は馬鹿だ。
 特別に君を抱いている今、そこから見えるほんの少し開かれた扉の意味なんて、少し考えれば解る筈なのに。
 「好きだよ、ユウ」
 その言葉はむしろ、扉の向こうの少年に向けて。





えと、わかりにくくなっちゃったんですが
ラビたんはアレンが居ること解ってて神田さんを抱いてます、という話。 (最悪だお前)