メランコリックベイビィ

 「どういうつもりさ!!」
 気を失った野良の子犬を彼の部屋に運んで、自室に戻ってくるまでずっとこの調子だ。むしろ部屋に戻ってきてからは一層煩い。人の部屋で位静かにできねぇのか。
 「ユウ!!」
 「ジュニア」
 呼び慣れない名で背後の男の名を呼ぶ。気配で、気分が更に低下した事を知る。ガキかお前は。
 「ユウ」
 「さっさと部屋戻れ」
 「なんで、名前」
 「お前に付き合い続ける暇はねぇんだよジュニア」
 肩越しに見た男の表情があまりにも滑稽で思わず嘲笑いそうになった。絶望と怒りが綯い混ぜになって今にも泣き出しそうな子供みたいに。
 (なんて顔してやがる、馬鹿)
 「ユウ」
 「帰れよ」
 「ヤだ、ユウ、なんで」
 「帰れ」
 背を向ける。拒絶の意思。普段従順な飼い猫が気紛れに突然爪を立てる。その程度の愛情表現、もしくはある種のテストともいうべき。されど飼い主は得てして気付かないもの。
 気の短い飼い主は、艶やかな黒猫を堕とすべく床へと強引に縛り付けた。押さえつけられた手のひらが痛い。物理的なものでなく。
 「ヤだよ、ユウ」
 見捨てないで。置いていかないで。今にも泣き出しそうな子供みたいに。
 (・・・・・・なんて顔、してやがる)
 本当は怖いだけのくせに。いつか全てを捨てなくてはならないと知っているからこそ、失うことに人一倍敏感になってる。手の内にある、全てを把握できていた筈の物に裏切られるのを恐れてる。
 でも弱い自分が何よりも嫌で。
 (解って無いとでも思ってたか)
 「餓鬼」
 「ユウに言われたくない」
 そんな泣きそうな顔して組み敷かれたところで感じるのは憐れだと罵る思い位だ。
 「馬鹿が。見失いやがって」
 嗚呼けれど、そんな馬鹿をどうしようも無く愛しく想う自分が何よりも馬鹿だ。

ばかばっか。