美貌を誇る 月曜日の子供 Monday's child is fair of face,

久しぶりに通りかかった談話室に、珍しい先客がいた。
「リナリー?」
艶やかな翠の黒髪を二つに結い上げた彼女は、
その多忙さゆえに殆どここに足を運ぶことは無い。
「あ・・・ラビ」
そういって振り返った笑顔も、心なし疲れて見えて。
「珍しいね、ラビがここに来るの」
「それをゆったらリナリーだってそうでしょ」
隣いい?と視線で問いかけて、小さく頷くのを確認する。
久しぶりに座ったソファは、思ったよりも深く沈んだ。
「疲れてる?」
「ん・・・ちょっとだけ」
いつも笑顔を絶やさない彼女は、疲れているときもそれを忘れない。
だが恐らくは、彼女の最愛の兄が見かねて休息を与えたのだろう。
「休憩、何時まで?」
「・・・あと15分」
「寝なよ。起こしてあげるから」
ね?と何時になく優しく微笑みかけてみたりして。
それが効を制したのかは解らないけれど。
小さくごめんね?と唇が紡いだのを最後に、肩に頭一つ分の重さ。
「おやすみ、」
その額に、静かに唇を落とす。
君の幸せなど守れないけれど、一時の静寂くらいは守り抜いてみせる。


(最初は神リナだったとかは言わない言わない/・・・)





気品溢れる 火曜日の子供 Tuesday's child is full of grace,

何故か天気の良い日というのは何もする気になれなくて。
心の赴くままに草原で寝転んでみたりする。
両手を大きく広げて。真っ青な空を仰いで。

「・・・・・・何やってんだ」
「十字架ごっこ。」

頭上から聞こえる低い声なぞ気にしない。
かの偉大なる父も、この空を仰いだのだろうか。
かの坂を、その自らの処刑台を背負いながら。

「......『Ηλι ηλι λεμα σαβαχθανι.』」
(マタイによる福音書27:46)

神とされ、神の子とされ、結果神に見捨てられ十字に掛けられた。

「神の子、って、俺らじゃんねぇ」

神の使徒と呼ばれ、けれど死に限りなく近い場所に立たねばならない。
何故か天気の良い日というものは何もする気になれない。
そうして寝転がった一人の子に、天は何時に無く恩恵を与えてくださるのだ。
曰く、「知」という。

「―――『Here is wisdom.』」
「・・・・は?」

頭上から聞こえる低い声が、嫌に耳に響く。
いつだってその音は、心を落ち着かせてくれるのだ。
たとえそれが、彼らしくない言葉を紡いだものだとしても。

「『Let him that hath understanding count the number of the beast: 』」
「ちょ・・・ユウ?」
「『for it is the number of a man』」
(ヨハネ黙示録13:18)

何時の間にか跪いた彼の膝はすぐ頭上に。
傾けられた上体のせいで、彼の額が自分の額にあたる。
長い髪が頬をくすぐる。漆黒の瞳から目を逸らせなくなる。
何時に無く、恩恵を与えてくださる仰いだ先の晴天は、彼にまで影響を及ぼした。

「―――お前は、神にはなれない」

不完全で、人間を表す数字を背負う彼が、嗤った。

「......『Non in pane solo vivet homo sed in omni verbo quod procedit de ore Dei.』」
(マタイによる福音書4:4 )
「『Gott ist tot! ! Gott bleibt tot! Und wir haben ihn geto tet.』」
(断章125 )

嗚呼、僕の神よ。
君がそう言うのならば、何も間違いなど在る筈が無い。


(文字化けじゃないですよー。上から順に、
 「エリ、エリ、ラマ、サバクタニ(神よ、神よ、なぜ私を見捨てられたか)」(ギリシャ語)
 「ここに知恵が必要である。」「思慮ある者は、獣の数字を解くがよい。」「その数字とは、人間をさすものである。」
 「ひとはパンだけによって生きるのではなく、神の口から出るひとつひとつの言葉によって生きる」(ラテン語)
 「神は死んだ。神は死んだままだ。そしてわれわれが神を殺したのだ。」
 因みに「不完全な数字」は6です。)






悲哀に満ちる 水曜日の子供 Wednesday's child is full of "woe,


「最近、神田と居ませんよね」

ちょっと早い夕食時。
目の前に座る少年紳士は俺に大量の皿の間からとんでもない大きな爆弾を投下した。

「今まで煩いくらい一緒だったのに。」
「そう?」
「何か、あったんですか?」

人を容易に引き込む大きな瞳は、決して悪意からではないことを知っている。
『何か』。今まで彼に張り付いていた俺を、引き剥がすほどの『何か』。

「失恋、てやつさぁ」

くすりと口角を持ち上げて笑う。

「失恋・・・ですか?」
「そ」
「フられた、ってことですか?神田に」
「んーん。違うさ」

あの時の彼の顔が、まだ忘れられない。
彼はそんな事はしない。とても、優しい人だから。
動揺して、泣きそうで、それでも全て解っていて諦めていた様な。
俺から依って、それでも受け入れてくれた。全てではないけれど、許容してくれた。
愛することを許してくれた。傍らにいることを拒まなかった。
あの時、結い上げていない髪が静かに流れた音が忘れられない。
静かな、部屋だった。

「俺がね、フったの。」

あの時の藍眼が静かに揺れたのが、まだ忘れられない。

「ラビが、ですか・・・・?」
「そうさ。意外?」
「そういう、訳じゃ・・・」

申し訳なさそうに視線を逸らすその瞳は、けれどそうであることを雄弁に語っていた。

傍から見れば、依存しているのは明らかに自分の方だったろう。
或いは神田の言葉は明らかに迷惑がっているものだったから。
けれど、違うのだ。本当は。
いつだって手の中から逃がしたくなかったのは自分の方で。
けれどだからこそ、手放さなければならない時期を見誤る訳にはいかなかった。

「その・・・・神田は、何て?」

そろ、と空気に出された言葉は小さく響く。嗚呼、あの時と同じ。
けれど鼓膜に届くその音はどうしても彼のものの方が心地よくて。
あの時、一言だけ彼の唇から紡がれた音を頭の中で再現する。寸分の狂い無く。

「『そうか』、って。」

ゆるゆると、ほんの少しでも見誤れば嗚咽と成り得そうな声だった。

「それだけ・・・ですか?」
「それだけさ」

本当は、もう少しだけ。
過去に、絶対に無いと思えていた頃に、
離れる事があるならと仮定した時の話。
全部忘れてやると、彼は言った。全部覚えてるよと、俺は言った。
一つだけでも良いから覚えていてと俺は言った。
けれどやっぱりいいや、と。ユウには背負わせたくないと笑った。
じゃぁやっぱり、全部忘れてね、と。その時は彼も当たり前だと笑った。
忘れてると思った。そんな戯言なんて。
けれど彼は、その嗚咽になりそうな声を噛殺して、

―――覚えてはいられない。けれど、忘れてなんかやらない。

そう、確かに静かに言った。けれど、

「・・・それだけ、さ」

本当にそうだったなら、どれほど楽だっただろう。

どうして君はそんなにも優しく、俺の望みをかなえてくれようとするの。


(悲恋ネタ)





遠く離れゆく 木曜日の子供 Thursday's child has far to go,

だって僕が生まれてこのかた君がいない世界の空気なんて吸った事が無い。
助けてよユウ。呼吸ができないじゃないか。
ねぇ、君がいない世界の空気は僕に酸素を運んでくれないんだ。


(神田さんの方が誕生日早いってことはラビは神田さんのいない世界の空気を
 吸った事が無いって事なんですよね萌ーというワケで死ネタ。/お前誕生日をなんだと・・・)





愛を求め歩く 金曜日の子供 Friday's child is loving and giving,

花満ちる春とは違う、射殺すかのような夏の日差しの中。
一際大きな木があって、その下で涼むのがちょっとした特等席。
だったのに、今日はなにやら先客の気配。
「―――ラビ?」
夏の日差しの色をした髪を珍しく下ろして、木陰の下で涼む。
近付いてもぴくりとも動かないのを、もしかしてと思いつつそろりと顔を覗き込む。
「・・・寝てる・・・・・・。」
某ポニーテール程ではないが周囲への警戒心が強い彼が、
こうして近付いても目を覚まさないのは珍しい。
涼しい風が二人の間を掠めていく。
頬にかかる髪をすこしだけくすぐったそうにしていたので、
起こさないようにそっと横へ払ってやる。
相変わらず、その目は開かれない。
「仕方ないですね・・・・」
今日の木陰での休憩は、いつもの半分の広さで我慢するとしよう。


(ちょっとだけ誕生日ぽい?)





一生懸命働く 土曜日の子供 Saturday's child works hard for his living,

時は夕刻。場所は自室。連れは赤毛のジュニアが一人。
ただし、視線を絡めると面倒なので極力顔は上げない。
何をしてるかと言えば、任務のための旅支度。
「長期任務なんて、最悪」
「うるせぇ」
「コムイの馬鹿ー。何も折角俺が居るときじゃなくてもいいのに」
「喚くな。っつーか出てけ」
「仕度、お手伝いします」
「邪魔だ」
「このトランクいっこで、いつもよく足りるよなぁ」
「・・・・お前だって似たようなもんだろ」
「着替え足りる?」
「ああ」
「洗面道具は?」
「いらね。っつーか安宿にだってあるだろそれくらい」
「任務の資料は?」
「持った」
「忘れもん無い?本当にない??」
「・・・・・・てめえの中の俺はいくつだ」
バタン、と力を込めて唯一の持ち物であるトランクを閉める。
相変わらず極力ジュニアと視線を合わせないようにして、片手でソレを持ち上げる。
左腰に愛刀を確かに佩いていることを感覚で確認して、さっさと自室を後にする。
「ゴーレムは?」
「行く直前にもらってくる」
ぱたん。扉の閉まる音。
がちゃり。鍵の閉まる音。
「任務地、電波、ちゃんと届くとこだよね?」
「さぁな」
「着いたら、連絡頂戴」
「・・・・は?」
「着いた後と、あと毎日寝る前。できればお昼にもっかい。それから―――」
「ふざけんな」
「ふざけてない」
「そんな面倒なことできるか」
「じゃ、俺から電話する」
「てめ、いい加減に・・・!!」
ひゅっ。空気を切る音。
瞬間的な怒りに任せて思わずジュニアを振り返れば、
自分の目の前には奴の拳。
微か其に触れる、自分の唇。
驚いた自分に満足して、ゆっくりと其の手が引かれる。
其はそのまま奴の口元へと導かれ、ちゅ、と軽い音。
その唇が触れるのは、自分の其が触れた箇所。
「・・・・・間接きっす頂き。」
その時のあの碧眼の笑みを忘れない。

結局、本当にかかってきた毎日のコールは全て無視してやった。


(元ネタは蟻ちゃんから!ありがとーぅw)





安息日に 生まれた子供は And the child that is born on the Sabbath day

安い部屋によく似合う薄いカーテンは、微かな日の光も簡単に通してきた。
一度目が覚めてしまえば、再び眠りに着く気にはなれなくて、
軽い布擦れの音を響かせながらそっとベッドから抜け出す。

「ユウ・・・」
傍らの温度が呟いた。
振り返ると何時もは曝されていない右目と、何時もと同じ光の左目。
ぼんやりとしか焦点の合っていないそれらとゆるりと視線が絡む。
「悪い・・起こしたか?」
「んー・・・」
返答にならない呟きと共に伸ばされる手。
汗と絡まって背中に流れていた髪に触れられる。
まるで酷く柔らかなものに触れるかのような手付き。
「・・・オイ、ジュニア」
「ユウ」
つい、と少しだけ引かれる髪。視線は合わない。
相変わらず寝転ぶ奴の注がれる興味と視線は長い髪にあって、
きっと自分の名が呼ばれたことにすら気付いていないのだろう。
毎朝の常套情景。頭に酸素が回りきらなかった夜の明け方。
「俺が死んだら、この髪切ってね。ばっさり」
そう言う奴の顔はいっそ穏やかとも取れて。
さらさらと飽かず指で髪を梳く感触は確かに心地よいものだけれど。
「・・・何で」
「んー、なんかさぁ、特別っぽくて良いじゃん」
笑う。それでも視線が絡むことは無い。
「―――誰が」
今更これ以上、何を求めることがあるのだろう。
(何を恐れている?)
明け方。ジュニアが、人一倍子供に戻る時間帯。
同じベッドで傍らに寝ていた人間と視線を合わせるのすら怖がるような。
それでもその人間の『特別』を求めるなんて、。
「お前の望むようになんて、なってやるか」
相変わらず今日も漆黒の髪は背で揺れている。
睡眠時間2時間の囁き。


(何時までやってたんだよお前ら!/ツッコミはそこなのか)






かわいく 陽気で 快活な子供 Is bonny and blithe, and good and gay.

「ユーウ、いっしょに食べよ」
「失せろ」
「相変わらず蕎麦?もー、栄養偏りすぎ」
「人の話聞いてんのか」
「俺はね、今日はシーフード!ほらね?健康的ー」
「・・・もういい」
「つーかさ、こないだからちょっと気になってたんだけど」
「あ?」
「コレ何?この緑の」
「山葵だ」
「山葵?ってナニ」
「薬味」
「薬味・・・seasoningとは別物?」
「spiceだろ。」
「美味いの?食べてみても良い?」
「単体で食うもんじゃ・・・・ってオイ!!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!!;;」


(ラビが山葵ダメになった理由。元ネタは灯ちゃんとの萌語り!!/笑)





今回はマザーグースを元にしました。
歌と歌詞については『マザーグース同盟』様から!