ベータシンドローム



 「ユーウ、お手紙ですよー」
 「いらね」

 部屋へ戻ると、同室の彼は何時もの様に机に向かって座っていた。
 かといって真面目に勉学に勤しむ訳でもなく、適当に且つヤル気なく、どうでもいい本なり雑誌なりあるいは今日のように押し付けられた手紙なりをぼんやりと眺めているだけだ。
 顔も見ずに即答なさった麗人の後ろに回り込む。背後から彼の見ている物を覗き込み、それが何か判ったと同時に、ちょっと、と顔を掴んで上向かせた。無理な姿勢を強いられて不服そうに見上げてくる綺麗な漆黒の目を真上から見下ろす。別に今更隠す必要も無いしお互い似たようなものではあるが、

 「・・・何見てんの」
 「手紙」
 「俺宛のでない?それ。見覚えあるんだけど」
 「『振り向いてくれるだけで良いんです』か。はっ、笑わせるぜ」
 「そーいう事言う子にはコレあげません」
 「いらねっつってんだろ」
 「フロイラインからでも?」

 瞬間、今までのやる気なさそうな態度とは裏腹に恐ろしい素早さで手紙に手が伸ばされた。
 けれど、その反応をしっかり予想済みだった俺はそれより一瞬前に、更に高いところへと手紙を避けてやる。座ったままのユウからは届かない位置へ。

 「・・・・・・俺宛なんだろ」
 「いらないってゆったじゃん」

 これみよがしに彼の前でひらひらと振って見せる。顰められた眉が何を言いたいのかは嫌という程解っているけれど、コレくらいの意地悪は許されるはずだ。何が悲しくて人様の、しかもよりにもよって自分が想いを寄せてる相手の恋模様を応援してるのか俺は。時々自分でも阿呆なんじゃないかと思えてくる。

 「フロイラインからのお手紙は初めてだっけねぇ、ユウ」
 「・・・・・・おいラビ」
 「どうすんの?マジっぽいけど。真ぁっ白だもんねぇあの子。ユウが実は普通に彼女いて、でも男に抱かれてますとか知ったらどんな反応するんだろうねぇ」
 「テメェだって人の事言えねぇだろうが。誰彼構わず抱くくせに。」
 「俺は男でも抱けるもん。あの子は下だね。」

 ユウに彼女がいる、というのはまぁちょっと相手本人を前にして言ったら嫌がられそうだけれど。ていうかユウもそんなつもりではないんだろうけど。でも傍から見ててそう見えるのは事実なワケで。ここであまりその事が知られてないのは、単にここが男子校で二人が会うことがないからってだけだ。
 けれど何故か、此処で一位二位を争う人気を誇ってしまう俺達は、毎週の様に手紙なりプレゼントなりを受け取る破目になっている。
 好意はありがたいけれど、行為ははっきり言って迷惑の域である。最初は丁重にお断りしていた俺も、次第に面倒になってきた。ユウに至っては初めから突っぱねていたけれど。
 だがそれならそれで、この状況を楽しんでやろうと二人で悪巧みを始めたのが、丁度2年前。その頃から流した噂は、今でもまだ根付いている。既にそれは噂ではなく事実になっているけれど。
 1年の時は6人部屋だった寮の部屋も、今では誰もが羨む2人部屋だ。因みにこれは主に俺の優秀さのお陰と自負している。他に邪魔者がいなくなったお陰で好き放題することもできるようになったし、噂の信憑性も増した。
 けれどそこに恋愛感情は無かった、筈で。
 別にお互い嫌いなわけではないし、万が一そうだとしたらこんなことは続けられていないし、けれど『愛している』と囁くには、近くに居すぎた気がする。そういう不安定な距離感。でもそれが酷く心地よくて、俺もユウも、ここから動こうとは思ってなかった。
 そこへ入学してきた下級生の一人。真っ白なフロイライン。
 同学年も上級生も関係なく誰にでも好かれる少年。それは俺らも例外ではなく、彼の事を嫌いではなかった。その事に一番驚いているのは、俺だったりする。
 あの神田ユウが、こうもあっさり他人を許容したのを初めて見た。周りに言わせれば俺の事も異例な速さだったとは言うけれど、そういうものは当人にとっては解らないものだ。俺だってここまで近くなるのにどれだけ苦労したか―――

 などと、ぐるぐる考えていたのがいけなかったらしい。
 一瞬の隙を突いて伸び上がったユウの手に、手紙が掠め取られたと気が付いたのは、既に俺の手が空になってからだった。

 「あーずるいー!ユウってば!」
 「うっせぇ」

 伸び上がったついでに椅子から立ち上がったユウは、その手で手紙の封を切る。中から取り出したのは真っ白な便箋だった。どうやらベットに向かうらしい。

 「届けたお礼にちゅー位してくれたって良いんじゃないー?」

 当然面白くない俺は、立ち上がったユウの首筋にぶら下がって、そのままずるずると引きずられた。
 しばらくすると、ベッドに辿り着く前にぴたりとその足取りが止まった。見上げると視線は手紙に向けられたままで、どうやらその内容に硬直なさっているらしい。

 「・・・おいラビ」
 「ん?」
 「お前これ読んだのか!?」
 「何その超失礼な自信。いくら俺でもそんな事までする訳ないっしょ」

 大体封だって開いてなかっただろうに。そんな風に思われていたなんて心外だ。
 半分はノリでぶーたれていると、ユウ本人は何やら難しい顔をして考え込んでいる。・・・・・・そんな衝撃的な内容だったのか?
 好奇心に負けてその手から問題の物を奪おうとすると、見事なタイミングで逃げられた。

 「何さーいつもは見せてくれんのにぃーお礼のちゅーも無いし」
 「身体全部やるから我慢しろ」
 「三日分ね」
 「ふざけんな」

 簡単に罵詈壮言を紡ぐのと同じ唇で触れて、舌を絡めてきた。息を止めてやるつもりの勢いで絡め返してやる。息苦しさに眉が顰められたのがわかった。高い位置に結われている髪を解いて、そのまま当初の目的地のベッドへと足を運ぶ。
 こういう時、二人部屋で良かったと思う。六人部屋のままだったら何もできやしない。





すんません普通に謝りますごめんなさい。
いやもう、水無月姫の描く某ギムナジウムパロがツボでツボで仕方が無くてですね!やっちまった、よ・・・・!!(ガタブル)
個人的にスタンスはラビ=オスカーなので(笑)そんで姫によるとアレン=トーマなので、そうすると神田さん=ユーリなんです、が・・・・。
・・・・・無理だべ(うわ言っちゃった)
寛大なお心で許してくださった姫にはもう、平伏すしかありません。ほんとうすみませんでした・・・!
で、あの、アレの続きとか待ってます!(オイ!!)