6、dark of the  moon (闇夜)


喉元から真っ直ぐに指を滑らせる。再びその肌に熱を呼ぶために。
人工的な光源のない部屋は湿った空気と暗闇が充満していて、
半分の視覚ではすぐ目の前の端正な顔立ちさえ満足に見えない。
触れていないと、消えてしまいそうで。
誰が居る訳でもないけれど、声を潜めて名前を呼ぶ。
それは、ほんの小さな我儘。

「ユウ・・・・・・」

「・・・・・・っ、ら、び・・・」

ユウが重さに少し呻く。噛み付いた白い喉には、治る事無く赤い痕が残っている。
舌で骨のラインを辿ると、微かな震えが指に伝わった。
月が、瞬間雲に隠れる。
薄いカーテン越しに申し訳程度に伝わっていた光が遮断されて、
部屋の中が、暗闇に染まった。
真っ直ぐにシーツに散らばっていた漆黒の髪をぐしゃぐしゃにして掻き寄せる。

「ユウ・・・」

名を呼ぶ。唇を塞ぐ。熱を求める。
そうすることでしか存在を確かめられないみたいに。
髪はサラサラと音を立てて零れていってしまいそうで。
熱は冷めてしまいそうで。
喉元から真っ直ぐに辿っていた手が、欲望に触れる。
瞬間、息を飲む音。顔見たかったなぁ、とぼんやりと思う。
その、自分の快楽に必死に耐える表情が堪らなく好きなんだ。暗闇が憎い。
こくり、と知らずに唾液を嚥下する。口の中が酷く乾いている。
暗闇が、憎い。

「―――何が、不安だ」

「・・・ユウ」

彼が忌み嫌うその名を呼ぶ。
たとえ髪が零れ落ちても、熱が感じられなくなっても、
その美しい響きだけは唯一のリアルとして留まるようにと。
月が顔を出す。淡い光が射す。
端正な顔が、光に晒されて半分の視覚に、網膜に映し出される。
その姿はまるで、再び月の光が遮られたらそれと一緒に消えてしまうんじゃないかと、。

「お前は、自由だ」

何時までも囚われるな、なんて。
お願いだからもっと上手な突き放し方してよ。