8、sick of it all (全てに吐き気がするんだ)
混血の者は不浄だと聞いた。血が混ざっているなど、と。聞いた当時の事は良く覚えていないし、そんなことなど気にしていなかったから、ああそういうモンなのか、とぼんやり頭の隅に止まったにすぎなかった。けれど意せずして周囲には面白いくらいに多様な血を持つ者がごろごろする場所に居る羽目になってから、一々気にするのも阿呆らしくなった。時折、やはり異種の血が流れる者を前にしてそう思うことはあったが。だがそれも血によるものというよりはその者自身の性質によるところが多かったと思う。そうしてまた一人、そのカテゴリーに分類せねばならない者が目の前にいる。
「 触るな 」
途中まで伸ばされていた、否、伸ばされかけていた手がぴくりと止まる。一回り大きな手は恐らく、自分など触れた事の無い、触れることのできない様なものまでも手にしたことがあるのだろう。混血の子供。異なる文化で作られた血肉が混ざり合って生み出されたのだと。皮肉にもその子供は酷く純粋を渇望していたので更に求めるものを手にしては混ざり合った。それを自身で自覚しているのかいないのか、また混ざり合って、それも自分の所為で純粋でなくなることを後悔しているらしかった。
「 触るな 穢れる 」
何時だったか、何故他でなく自分に執着するのかと訊ねた事があった。その問いにそれは、俺が触れても穢れ無そうだから、と答えた。孤高だと答えた。全てを浄化する力を持ってるとでも思ってるのか。狂ってやがる。と吐き捨てた。それにもただ肯定の意を返すだけだった。それにすら腹がたったのを覚えてる。穢れてる。そう感じ始めたのはいつの事だったか。さして間を置かずその体温が触れているのだと考えるだけで吐き気を覚えるようになった。口の中に唾液が溢れて、それを必死に嚥下することでどうにか胃からの逆流を押さえこむ術を覚えた。それでも吐き気はまだ治まらない。
「 ―――ユウ 」
自分の嫌う名を呼ぶ。混血の子供。結局のところ自分もこれも、その名は己を指すものでは無い。それは仮のものであって、その音はその音を使って己を認識する者がいて初めてその音は己のとなるのだ。呼ぶものが居なくてもそれは己を指すものだと解る本来の名など恐らく、自分もこの混血の子供も忘れかけている。
「 触るな 」
「 ユウ 」
「 触るな 穢れる 」
「 ・・・・・・・ユウ 」
「 ・・・頼むから 穢すな 」
触れられれば、穢れてしまう。何よりもきれいな手を、穢す訳にはいかないのだ。
「 ねぇユウ もぅ いいんだ 」
だが結局のところ、幼い頃のインプリンティングにも似た今はもう発言者の顔が記憶に無い言葉を鵜呑みにしていただけで、穢れの意味すら探そうとしていななかったのだ、と気付いたのは最近で、それ以来、この混血の子供は既存の穢れている者、というカテゴリーの中に更に新たな枠を作ってそこに収めなければならない種類のものらしいと納得した。要するに御大層な言葉を使っているだけで、穢れ、など、恐らくは自分と異種のものを一括りにするための丁度良い名詞でしかなかったのだ。ならばそれが、自分よりも純粋なものであった場合は、どう括れば良いのか。残念ながら、未だ答えは見つからずにいる。
「 ユウ 」
「 ―――触るな 」
「 ユウ 聞いて 」
混血の者は不浄だと聞いた。異なる血肉が混ざり合って生み出されたのだと。だがその子供は酷く純粋を渇望していて、求めるものはその手で混ざり合った。そうしてきっと、より高度なものを生み出すのだ。そこには自分が居てはならない。居ては、これが求める様なものは生み出すことができないのだ。何よりも純粋な、。
「 応えてくれなくていい それでも 求める事だけでいいから許して、 」
お前の求めるものは俺にはないのだと、どうしたら伝えられるだろうか。
君程きれいなものを、僕は知らない。
ユウラビ目指して玉砕し た 」 ̄|○