こんな記憶は、おそらくこれきりだろうな。そう思いながら、歩く。
水の流れる音を左手に、土手を歩く風は心地好く、流したままの長い髪を攫っていった。
3歩分前を行く男の背を見ながら想いにふける。
漆黒のレンズ越しに見える世界のなかでもそこだけは嫌に鮮明で、色彩がくすんでいない。
ふと。視界の隅に映った鳥の影。
夕日を背にしている所為でそのシルエットしか見ることは叶わなかったが。
真直ぐに、水面へと、落ちる。躊躇いなく。
その姿に、知らず歩みを止めた。
その影に、自分もそうなるべき先を見て。ああ、けれど、と感じる自分が居ることを知る。
「―――ラウ?」
自分が立ち止まった気配に気がついたのか、前を歩いていた男が振り向く。
そちらには視線も遣らず、ただ、あの鳥が落ちていった場所を見つめる。草の影が邪魔だ。
水飛沫が軽い音を立てて、落ちた場所からやや離れたところで響く。
落ちた鳥が、その嘴に一匹の糧を咥えて水面から現れた。そして紅に染まった虚空へ飛んでいく。
その姿に、ほんの少し、裏切られた気分を味わいながら。
裏切られた?何に?どうしてそんな事を思うのか。あの鳥に。
同じものだと思ったからだろうか。
何も遺す事無くその闇が見える、或は永遠の甘美となる空間に真直ぐに進む姿が。
・・・馬鹿な。同じものなどあるはずも無い。自分を除いて。
そして、あってはならない。自分という存在は、この世に、自分ひとりでなければならないのだ。
「ラウ」
その名さえ。
低い音に乗せて紡がれる自分の名は、聞いていて飽きはしない。それでも。
「お前は、堕ちる事などないのだろうな」
まだ、光は眩しくて真直ぐに見れない。
視線が、あの鳥の落ちた場所から動かすことができない。
この瞬間に自分があの穴へ落ちたら、この男はどうするのだろうか。
「私が幾ら苦しもうと、嘆こうと、足掻こうと、」
「・・・・ラウ」
「お前は、堕ちることはないのだろうな」
ざぁ、と一際強く風が吹く。
流したままの髪は、けれど顔に絡む事無く、それは男の手に遮られる。
気付かないうちに1歩分もなくなっていた距離は、その手から充分に男の体温を伝えてきた。
人に触れる、そこからの温もり。感じるだけで吐き気がする。
頬を、静かに両の手で捕まれて、男の目を真直ぐに見据えさせられる。
漆黒のガラスを縁取るフレームが、ゆっくりと男の手に従って自分から外されてゆく。
一枚の壁が剥がれたその世界は余りにも光が強すぎて、思わず目を伏せた。
今は、吐き気が心地好い。
ゆっくりと目を開ける。視界に映るのは朱に染まった世界で、相応しい色だと思った。
この世界にも、自分にも。
ただ、目の前にいるこの男にだけ、合わない気がして。
「ラウ」
短く呼ばれる、自分の名。
呼ぶな。そう言ったところで聞きもしないのだろう。
何故呼ぶ?以前そう問えば、泣きそうだから、と返されたことを思い出す。
お前が、この世界で、独りぼっちみたいな顔してるから、と。
なら、そうしているのは誰だ。
名前が呼ばれれば、独りじゃないってわかるだろ、と。
なら、その所為で孤独を感じるようになったのは、どうすればいい。
「・・・ムウ」
一言だけ、そう自分の声で呼ぶと、
「・・・・・・やっと呼んでくれた」
そう言ったお前の顔は、他に呼ぶ者がいるからできる表情だと、お前は知るはずも無い。
お前しか、お前すら呼ぶことの無い名など、自分のものなど、いっそ消えればいい。
消えてしまえば、堕ちる事ができるのなら、無に還れるのならば、あの鳥のように真直ぐに。
もうこんな風に、孤独を感じることも無いのに。
重ねられた唇の温度を感じて、目を閉じる。吐き気を抑えるために。
舌を絡めるのは、押し返すために。服を掴むのは、耐える為に。
与えられる快楽の所為で、苦しんでいることなど、お前が知るはずも無い。
それを、喜んでいる自分を、誰も知ることも無い。
あの鳥のように、真直ぐに落ちることを望んでいながら、
こうして時折降ってくる感情をもてあまして捨てきれずに、堕ちる事を刹那躊躇う自分を、知っているから。
『ラウが可哀相』という気持ちがどうにもこうにも強くて書き殴り。
ラウを本当の意味で幸せにできたのは、この男だけだったはずなのになぁ。
何をかまリ間違って生き返った挙句に一人で幸せになってやがるんだ子安!!<違
ラウにはギルやレイじゃ、やっぱりだめだったんだと思う。ムウじゃないと。
ていうか、なんだかラウレイかけなくなったよ・・・(凹)
某様も仰ってましたが、どうしてこう、ラウばっかり・・・!と思うよ。本当に。
周りに人が居るが故に孤立するのがフラクルで、
周りに人が居るが故に孤立してるのが一総だと思う。
字にするとほんの僅かな違いなのに、ものすごく違う。