T―祈(僚/左右前)
ざぁと風が木々を凪ぐ音。
その音をすぐ下で聞きながら、ああ、まだ生きてるんだと実感する。
医院から自宅へ帰る僅かな距離でさえ、休みを挟まなければならなかった。
今日はよっぽど調子が悪い日だ。
深く溜息を漏らすと、傍らにいた相棒が心配そうに覗き込んでくる。
「・・・大丈夫だって。もう少ししたら、帰ろう」
呼吸も大分落ち着いてきた。内臓の痛みも和らいだ。
ただもう少し、この木漏れ日と木々の囀りを聞いていたくて。
頭上の音と、下に聞こえる波の寄せる音が重なる。
そうして朧げに脳裏に蘇る母の声。
それはかつて聞いたものへの帰心ではない。
自分の中にある情報を、音として認識したときの具現にすぎない。
少しずつ、扉の向こうにあるものの姿が見えてくることに、
恐怖よりも、むしろ喜びを覚えている自分を知っていた。
ああこれで、何もしないで終わらないで済む。
この島を、守ることができる。自分の手で。
俺に居場所をくれて、支えてくれた人たちに、お返しをすることができる。
「―――僚?」
瞼を開いた先に見える大切な人を、守ることができる。
「・・・・祐未」
ああ、本当に今日は調子が悪い日だ。
どうか、この日々が一日でも長く続くことを、心の底から祈ることしかできない。