V―果(総士/左右後1話前)
『―――これを聞いてくれる奴がいることを、祈ってる』
人気の無い部屋に響いていた、聞きなれていた声が途切れた。過去形だ、全て。
音声記録を再生し終わったことを告げる短い電子音が、
今まで響いていた声以上に鮮明に耳に届いた。不快でしかない。
再生機からディスクを取り出し、硬く握り締める。
本当は、そのまま握りつぶしてしまいたかった。
記録の本体はアルヴィスにある。これはコピーだ。壊したところで何の問題も無い。
だが、出来なかった。
決して、手に力が入らなかったわけではない。
決して自分の内側から溢れ出てくるものを押し留めるのに、必死だったからではない。
唇を噛み締めたのは、決して漏れ出そうになる声を押し殺すためではない。
震えが止まらないのは、悲しみからでは、決して無い。
悲しむ事は、許されない。彼らは自分達にそんな思いをさせるために
この意思を遺したわけではないのだから。
笑って暮らせるように、平和である時間を与えてくれるために彼らは戦ったのだ。
ならば、その戦いに感謝を表すためには、こんなところで俯いているわけにはいかないのだ。
彼ら自身を失ってしまった以上、その戦いの価値を決めるのは残された自分達だ。
だがその思いが、先刻父に告げられた『頼み』に頷いた自分を追い詰めた。
それは、彼らへの裏切りへと続くものではないだろうか。
自分の意志を振り払うようにかぶりを降って、握り締めていたディスクを額へと翳した。
そして、机の引出しの奥深くへと仕舞いこむ。過去は振り返ってはならない。
ベットへと潜り込んで、そっと、彼らへの、最初で最後の謝罪の言葉を紡いだ。