不確定恋愛理論
「暑い・・・・」
この島の夏は暑い。夏だから当然かもしれないが。
「あっちぃー・・・」
外の太陽は相変わらず煌々と輝いていらっしゃる。
見上げると目が痛い。その強さがほんの少しだけ嫉ましい。
生徒会室の前にそびえる木に、蝉がとまっているのが見える。
その背の羽が生み出す鳴き声のリズムにあわせてみた。
「あちー あちぃー あ」
「うるさいわよ」
蝉とハモっていると、部屋にいた副会長様に怒られてしまった。
俺が黙っても、木の幹にしがみついている蝉はまだ元気良く鳴いている。
「なんだよ、祐未は暑くないのか?」
「暑いわよ」
トントン、と紙の束を机の上で整える音が軽く響いた。
続いてパチン、とホチキスの音。
「どっかのサボリ癖のあつ生徒会長さんが、部屋に居るのに仕事してくれないから
私もいるまでもこの暑い部屋にいなきゃならないのよね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
反論できなかった。というか間違いなく俺のことなワケで。
けれど無理強いしてこないのは多分、自分がこの暑さに、本当は体調が良くない事を気付いているからなのだろう。
さわ、と微かな風に葉々がなでられる音がした。
何時の間にか蝉は鳴き止んでいる。
太陽は相変わらず照り付けていて暑い。
世界の音が、無くなったかと思った。
「・・・・・・・祐未」
「なに?」
突然、風が吹いた。
今までの静けさが嘘のように一瞬、声を掻き消すほどに世界に音が戻る。
葉々が風に煽られて擦れる音がする。
部屋に入ってきた風が壁に貼られていたプリントを鳴らす。
風に驚いた生徒の声が外に聞こえる。
その風は、気紛れに声を掻き消した。
ほどなくして治まった一瞬のざわめき。
落ち着いたのを見計らったようにして、蝉がまた鳴き始めた。
吹き抜けていった風が嘘のようにまた、あたりには蝉の声だけが響く。
「ごめん・・・聞こえなかった。何?僚」
それでも響く、声。
「いや・・・・なんでも無いよ」
(まったく、何てタイミングだ)
「何よ、気になるじゃない」
「なんでもないって」
曖昧に笑ってごまかす。
窓の外に目を向けると、今度は優しい風が前髪を撫でていった。
ひとしきり鳴いた蝉が新しい木へと飛び立つ。
「・・・・風が、まだ言うなってさ」
飛んでいった蝉がいなくなった木の幹を見つめる。
自分が飛び立つ時も、あんな風に思うだけ鳴いて、潔く去ることができるだろうか。