食堂の中で、一際目立つテーブルがある。
普通の人間が食べる量ではない皿の数を目の前に、黙々と料理を平らげるのは白髪の少年。
良く見知った友人である彼は、今日も何時もと変わらない食事をしているようだ。
一人で食べるのは寂しいと思い、声をかける。向かいに立って、ここ良い?と笑って。
しかし返ってきたのは予想外な鋭い眼光。そして一言。
「僕は貴方が嫌いです。」



カマキリのタマゴ


「うーん、実に明瞭かつ不可解なお言葉さね。」
明らかに敵意のあるその視線をさらりと受け流し、ラビは向かいの席へ腰を落ち着けた。
といっても、テーブルの半分以上、少年の―――アレンの皿で埋まっているのだが。
「良ければその理由を聞きたいんだけど」
「その前に言葉の意味わかってますかジュニア。なんでそこに座るかなぁ」
「俺はアレンに嫌われるようなことした覚えないし、アレンが俺を嫌いでも、俺はアレン嫌いじゃないから」
からりと笑って、イタダキマスと両手を合わせてから自分の食事に手をつける。
食べる前のそれは、東の島国の風習だと聞いていた。
こちらの嫌味をなんとも無しに受け流してしまえるのは、ラビだからこそできる業であった。
例えば同じことをアレン自身がされたならば、つっかかっていくか諦めるかの二者択一にしかならない。
第三の答えを導き出せるラビだからこそ、彼も、心を許しているということか。
「・・・これじゃ、やつあたりもできやしない」
小さく溜息を吐いてテーブルに突っ伏す。ぽつりと呟いただけだったのだが、向かいの耳聡い彼にはしっかりと届いていたようで。
「やつあたり?俺に?―――ははぁ、ソレでお前が悩むってコトは、ユウのことか」
ユウ、と自分は決して口にできない彼のファーストネームを軽々と発するブックマンジュニアを睨みつける。
けれどそれは肯定と言っているようなもので、正解?と意地の悪い笑みが向けられる。
「・・・だったら何ですか」
「いやぁ、なんともないけど。相変わらず思いつめてんのなーっと思って」
「だって、しょうがないじゃないですか。思いつめるのはラビの所為です」
「んーそっかぁ。ごめんごめん」
ちっとも悪いと思っていないのは言葉からも明らかで、
器用な手は皿の山を掻き分けてまるで子供をあやすようにぐしゃぐしゃと髪を撫でてくる。
他人の壁を取っ払って、それでも無礼でなく相手の領地に足を踏み入れる術を、このジュニアは得過ぎていると思う。
高いことで有名な、彼ことあの神田ユウの壁さえもこのジュニアは飛び越えてしまっているのだ。
他人を寄せ付けない空気を纏う彼の横に何の障害も無く立てる人。
他に誰一人として呼ばない彼のファーストネームを口にできる人。
一人で立つように戦う彼が、背中を預けられる人。
アレンが得たいと思っている立場を、このブックマンジュニアは特許所有中とばかりに全て持ってしまっている。
やつあたりなど、見当違いなのは充分に承知。
けれどそうでもしないと怒りが収まらないくらいには、神田の『特別』を持ちすぎているのだ、彼は。
「―――何か一つでも、勝てるものがあればいいのに」
「それは俺に?それともユウに?」
「どっちでもいいです。この際」
「お前ね・・・・。そんなに欲しいなら、奪いにくればいいでしょ?」
「嫌ですよ。だってラビは、僕が欲しいって言ったら譲ってくれちゃうでしょう。それじゃ意味がないんです」
もうひとつの腹立たしい面は、ラビがその特許を少しも『特別』と思っていないことである。
アレンが欲しくて欲しくて仕様が無いものを、いとも簡単に手にしていながら、それを何とも思っていない。
いっそこちらに見せびらかすなり何なりしてくれればこちらも反撃に出ようとできるのに、ラビは一切それをしない。
動いてくれなければ、こちらも動くことなどできないのに。
「ひとつだけ、ヒントやろうか」
「・・・はい?」
「お前のイタダケナイところのひとつ」
いつの間にか食事の手を止めて、優しく、けれど真剣な表情のラビの隻眼と視線が交わる。
「自分からは動かないところ。さながらカマキリのタマゴさね」
「・・・なんですか、ソレ」
「カマキリがどうやってタマゴを産むか知ってっか?」
正直に首を横に振った。知識量でジュニアに勝てるとは思っていない。
こんなところで意地を張るだけプライドの無駄だ。
「次の冬、雪がどれくらい積もるかを予想して産みつけるんさ。
 大雪になりそうだったら高い位置を選んで産む。
 そうすることで、タマゴが冬の間雪の中に埋まらない様にするんさ」
「・・・それが、どうして僕なんですか」
「常に、相手の出方を予想してその上手を行く。相手に埋もれない様に。
 逆に言えばそれは、相手が動かない限り自分からは動けないってコトさね。」
「―――っ!本当、嫌なところばかり見てますね貴方は」
つい言い返してしまったことで、またもやそれを肯定としていると墓穴を掘ってしまう。
けれどそれすらもジュニアはからりと笑ってやり過ごす。
「まぁ、しょうがない。それに比べてユウはクロコダイルさね」
「・・・何でワニ?」
「クロコダイルは、動かないものには興味を示さない。動いてるものだけエサとして捕まえに動くんさ」
「なんですか、それ・・・」
あのビジュアルがワニに例えられたことよりも、その余りにも正反対な性質と、
それをぴたりと言い当てたジュニアの言葉に初めから限りなくゼロに近かった気力が最早マイナス値だった。
「・・・・そんなんじゃ、絶対勝てないじゃないですか」
「当たり前だろうが、ばぁか」
後ろから聞こえた、聞き覚えの有る第三者の声に思わず椅子を投げ出す勢いで振り返る。
そこには予想に違わぬ人物―――神田ユウが、壁に背を預けて立っていた。
「な、ななななんでここに・・・!?」
「やぁだユウってば。立ち聞きなんて悪趣味ぃ」
「よく言うぜ、俺が居るのに気がついてて喋ってたじゃねぇか」
神田の言葉にラビを振り返ると、何も知りませんとでも言いたげな胡散臭い笑みを浮かべてこちらを見ていた。
何時の間にやら食べ終えていた食器はキレイになっていて、食べる前と同じ様にゴチソウサマ、と両手を合わせる。
「じゃぁアレン、俺行くから」
「は!?」
「今日の午後は鍛錬するって決めてんの。お礼待ってるかんね」
「ちょ、ちょっとラビ・・・!!」
全く聞く耳を持たずにスタスタと行ってしまうラビの後姿を見送る。
その姿が小さくなったところで、思い出したように後ろを振り返ってみると、見下された視線と合って思わずびくりとする。
そこに侮蔑の色は見えなかったが、今の会話を聞かれていたとなると。
(穴があったら入りたい・・・・!!)
「おい」
「はいぃ!!!」
自分でも情けない位に飛び上がってしまう。
それを全く気にした様子もなく、神田は間にあった2歩の距離を狭めると、
テーブルの上にあったアレンの食べかけの南瓜の甘煮を口に放りこむと、目を合わせて、笑った。
「アイツによると、俺は動くモノしか興味がないらしいぞ?」
それだけ言うと、足音を残して行ってしまった。
向かう先は、食堂の出口。そこで待っていたラビと共に、二人して食堂を後にする。
ああそういえば、午後は鍛錬だと言っていたか。一緒にやるのだろう、きっと。
そしてそれを、態々ラビが口にして、あまつさえアレンの見える場所で神田を待っていた意図、とは。
「・・・動いてやろうじゃないですか」
久しぶりに難攻不落の砦を陥落させるべく、残りを平らげてから鍛錬場へと向かった。







というワケで、水無月様からのリクで神アレでした!(笑)
が、がんばって神アレで・・・!!でもやっぱり、書くとラビュ率が上がる(笑)

えー、今回のテーマはは「大嫌い」で。 とのことだったんですが・・・・
お前、それどこいった。むしろアレンたま、全身でKOIしてませんか。
「切なさとかすれ違いとか嫉妬とかそういう切羽詰った感じ」なんて
どこ見りゃ見当たるんだよ。
クリアした条件なんて「でも最後はハッピー」と「ラビ出して」位じゃねぇか・・・・!!!
・・・・・はい。本当すみませんでした・・・・・・!!!_| ̄|Σ・∴'、-=≡○
こんなんでもOK出して下さった水無月様は神です。いや、姫なんですけど(笑)

何やら水無月様には、ラビを大変気に入っていただけてまして!!ww
今回もラビは力いれましたよーって、その所為でテーマすっ飛ばしてしまった訳ですが(爆)

・・・・・や、もう本当すみません・・・・(土下座)

水無月様、リクエスト本当にありがとうございました!!w
お礼待ってますw(笑)



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