paternalism
<Prologue>
西の空に夕闇の帳が落ちる頃―――
小高い丘の上に建つ孤館の窓の一つに、小さく淡い光が灯る。
数日前から付くようになったその明かりに気付いた者は殆どおらず、気付いた者も特にそれを気にする事も無かった。
理由は多々あれど、関わりを出来るだけ持ちたくないと思う者が殆どだったからである。
その昔、悪魔の子を孕んだ娘がいたと噂される、その館と。
「―――っ、」
暗闇に映える微かな明かりが灯された気配に、ベッドへ横たわったままの身体がぴくりと震える。
緩やかな覚醒と共に目を開ければ、全て夢だともう何度願ったか知れない、
灯りとよく似た色の諸悪の根源である人物の髪が視界の端へ映った。
その鮮やかさと、ベッドに縛り付けられ続けている所為で軋む身体が現実であることを物語る。
「あ、起きた?」
微かな呻きを耳聡く聞きつけて、まだ微かな火の残る燐寸を手にしたその諸悪の根源が微笑う。
「流石にもうヤバいかなって思ってたんだけど、まだ平気そうさね。」
「ふざ、けるな・・・」
「御祖父様に感謝しないと」
明るい橙の髪を揺らしてさも面白そうに笑った。
燐寸の火を消すと、手近にあった椅子を引き寄せてベッドへ拘束したままの秀麗な漆黒の瞳を見遣る。
「気分ど?」
「最悪だ」
「そ」
その漆黒の中に、まだ弱まる事無く光が射していることに満足して、翡翠の隻眼が笑う。
椅子に座ったまま手を伸ばしてベッドの上の身体に触れると、それを避けるように身が捩られた。
だが拘束された身体は逃れきれずにその手に接触を許す。
「ねぇ、ユウ」
「呼ぶな・・・っ」
「何、呼ばれると余計に感じちゃう?」
暖かな髪の色に似合わず冷えた手が白磁の肌を面白気に辿っていく。
だがそれは緩やかな熱を呼ぶものの、同じ処を何度もなぞるだけだった。
「ねぇ?気変わってくれた?」
「誰、が・・・っ!!」
「あ、そう。それは残念」
しょうがないなぁ、と続けながら、言葉とは裏腹に嬉しそうに立ち上がった。
その体が、丁度ベッドから―――神田ユウからは、明かりから逆光となって闇として映る。
何度も繰り返されたそれは、神田に次の行為を予測させるには充分だった。
「やめ・・・っ、ラビ!!」
「あ、久しぶり。ユウが名前呼んでくれたの」
ラビ、と呼ばれた闇が、さも当然であるかの様にベッドへ横たわる神田に圧し掛かる。
くすりと不敵に笑みを模った口角に合わせてベッドのスプリングがぎしりと悲鳴を上げた。
「や・・・っん、ふ・・・」
無理矢理に合わせられた唇から、飲み込みきれなかった吐息が甘い響きを持って零れる。
呼吸を奪ったままラビは、その手を神田の胸元へと滑らせた。
「ん、っぅ・・・」
ラビの、人では有り得ない程に低い温度の手に、神田の身体がびくりと震えた。
その反応を楽しげに目の端に捕らえて、ラビはやはり逃すには惜しい、と舌をより一層深く捕らえる。
手を腰の辺りまで滑らせて本格的に熱を煽りにかかる。
「ユウ」
「っ、はぁ・・・」
銀の糸を引きながら唇が開放された。
急に肺に届いた酸素に神田が肩で息をする合間にも、ラビの手は緩やかに神田の肌を撫ぜてゆく。
「ねぇユウ、やっぱだめなの?」
「ひぁ・・・っ!」
問いと共に握りこまれた熱に思わず背を反らせる。
「・・・っ、何度も・・・言った、だろ・・・」
耳に届くのはもう飽きるほどに投げかけられた問いで、その度に同じ答えを返していた。
「お前、を・・・どうこうする、つもりは・・・ぁっ」
「うん、無いんだよね、ユウには」
ラビも答えは特別期待してはおらず、ただ悪戯に手にしたままの神田の性器を嬲る。
変なところで生真面目な彼が、問いが投げかけられたからには答えを返すことを知っていて。
「血は・・・幾らでも、っ、やるって・・・言ってる、だろ・・・!」
「そうさね。もう何度も聞いた」
「だったら・・・っ!」
「でもさぁ、それって」
「っ、あぁ!!」
手で玩んでいた神田の熱を、何の前触れも無くラビは飲みこんだ。
引き剥がそうにも両手は拘束されたままで、
神田は粘膜に包まれる感覚に身を震わせながらいるしかなかった。
「んぁ!や、め・・・ラビ・・・っ」
「血だけはやるからってさ、ソレ凄い生殺しなんだけど」
「ソコで、喋んな・・・っ!」
「言ったっしょユウ?俺らはね、こうしてる時の血を飲むんさ」
先端から溢れ出る白濁を追って舌が蠢く。
敏感な部分に余す所無く舌を寄せられる感覚に、神田は最早呼吸をするだけで必死だった。
ラビの舌は器用に動き、確実に神田から快楽を引き出していく。
「やぁ、あぁ・・・っ!!」
「ん・・・っ」
一際高い嬌声と共に吐き出された熱を、ラビは一滴も逃さずに喉を鳴らして飲み込んだ。
「や、ぁ・・・・」
ラビは糸を引きながら神田の性器から唇を放し、達したことで力の抜けた神田を見遣る。
神田は荒く肩で息をしながら、きつく瞼を閉じて急激に襲った波を遣り過していた。
必死に快楽に溺れまいとしている白い身体を見ながらラビは、
今は見ることの叶わない漆黒の瞳に良く映えた、数日前の夕日を思い出していた。
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